淡い紅の中に、やさしさと気品を宿す「聴色(ゆるしいろ)」。
古くは「許された紅色」として、身分を超えて人々に愛されたこの色は、日本の伝統美の象徴ともいえる存在です。
この記事では、聴色の意味や由来、紅花染めとの関係、そして現代におけるデザイン活用例までを詳しく解説します。
聴色がどんな時代を生き、なぜ今なお人々の心を惹きつけるのか。
その奥深い世界を、一緒に紐解いていきましょう。
聴色(ゆるしいろ)とはどんな色?その基本情報を紹介

ここでは、聴色(ゆるしいろ)がどんな色なのか、基本的な数値データや色味の特徴を整理していきます。
紅花で染められた淡い紅色として知られる聴色は、日本の伝統色の中でも特に上品で優しさを感じる色です。
その色名の背景には、古代の社会制度や染色技術の歴史も関係しています。
聴色の色コード・RGB・CMYK・Webカラー
聴色の数値情報は以下の通りです。
| RGB | R:252 / G:212 / B:213 |
|---|---|
| CMYK | C:0 / M:25 / Y:10 / K:0 |
| Webカラー | #FCD4D5 |
| 誕辰色 | 6月28日 |
この数値からもわかるように、赤みが強く、わずかに白が混ざることで柔らかな印象になります。
「可憐で控えめな紅色」こそが聴色の最大の魅力といえるでしょう。
紅花で染めた淡い紅色「一斤染」との関係
聴色は、紅花を使って染めた淡い紅色で、もともとは「一斤染(いっこんぞめ)」と呼ばれる色合いを指します。
「一斤染」とは、紅花一斤(約600g)で絹一疋(きぬいっぴき=成人1人分の布地)を染めたときの色の濃さを表すものです。
紅花の量が多いほど濃い紅色になり、そのぶん高価になっていきました。
つまり、聴色は紅花の使用量が少なく、淡い発色をした紅色ということです。
| 染料の量 | 色名 | 色の特徴 |
|---|---|---|
| 少量 | 聴色(ゆるしいろ) | 淡く優しい紅色 |
| 中量 | 中紅(なかべに) | ほどよく深みのある紅色 |
| 多量 | 退紅(あらぞめ) | やや渋みを帯びた濃い紅色 |
「退紅」や「中紅」との色味の違い
聴色は「退紅(あらぞめ)」や「中紅(なかべに)」の中間の色とされています。
ただし、時代や染め方によってその境界はあいまいで、職人や地域によって微妙に異なります。
一斤染よりやや濃い色を「中紅」、さらに退色した色を「退紅」と呼ぶなど、名称には文化的背景が強く反映されています。
これらの色はすべて紅花染めの階調の中で生まれたグラデーションの一部であり、聴色はその中でも特に人気の高い柔らかな色味として長く愛されてきました。
聴色は、「紅花のやさしさ」と「上品な控えめさ」を併せ持つ色として、今も多くの人に親しまれています。
聴色の歴史と由来 ― 「許された紅色」と呼ばれた理由

ここでは、聴色(ゆるしいろ)がどのように生まれ、なぜ「許された紅色」と呼ばれるようになったのかを解説します。
古代日本の身分制度や染色文化の背景を知ることで、この色名に込められた意味がより深く理解できます。
古代日本での紅花染めと身分制度
古代の日本では、紅花は非常に高価な染料でした。
紅花は花びらからわずかな量しか赤色素を抽出できず、多くの花を使わないと濃い紅色を出せなかったのです。
そのため、濃い紅色に染めるには莫大な費用がかかり、紅花染めは富や権力の象徴とされていました。
| 染色の濃さ | 主な着用者 |
|---|---|
| 濃い紅色 | 皇族・貴族(高貴な身分) |
| 淡い紅色(聴色) | 一般の人々 |
こうした背景から、濃い紅色は「禁色(きんじき)」と呼ばれ、限られた身分の人しか着ることが許されませんでした。
一方で、淡い紅色は「だれでも着用が許された紅」として「聴色」=“許された紅色”と呼ばれるようになったのです。
「禁色」と「聴色」の関係とは?
「禁色」とは、特定の身分以外の人が使うことを禁じられた色を意味します。
これは単なるファッション上のルールではなく、社会秩序や身分制度を象徴する文化的な規範でした。
紅花染めの濃い色が禁色とされたのに対し、淡い紅色であれば一般庶民にも「聴く(ゆるす)」ことができる、という考え方が生まれました。
つまり、聴色は権威と庶民の間のバランスを象徴する色だったのです。
| 分類 | 意味 | 使用可能者 |
|---|---|---|
| 禁色 | 使用を禁じられた高貴な色 | 皇族・高官 |
| 聴色 | 使用が許された穏やかな紅 | 一般の人々 |
時代とともに変化した聴色の濃淡
時代が進むにつれ、聴色の濃さは徐々に変化していきました。
もともとは淡い紅色を指していたものの、次第に技術や嗜好の変化により、より濃い色合いが「聴色」と呼ばれるようになりました。
さらに、「今様色(いまよういろ)」のように、聴色の範囲を超えるほど濃い紅も現れるようになります。
これは、時代ごとに「許される美意識」が変化したことを物語っています。
聴色は、社会の変化に合わせて“許しの幅”を広げていった色とも言えるでしょう。
聴色と紫 ― 紫根染めとの意外な関係
聴色といえば淡い紅色として知られていますが、実は「薄い紫色」を指す場合もあります。
ここでは、聴色が紫と結びついた背景と、紫根染めとの関係について解説します。
紅花だけでなく、紫根(しこん)を用いた染色文化にも「聴色」の思想が反映されていたのです。
紫色も「禁色」だった?
古代日本では、紫も紅色と同じく「禁色」とされていました。
紫は「徳」や「高貴さ」を象徴する色であり、特に濃い紫は皇族や高位の僧侶しか身につけることができませんでした。
一方で、紫根(むらさき草の根)を用いた薄い紫色の染めは、庶民にも使うことが許されていました。
| 染めの種類 | 色の特徴 | 使用階層 |
|---|---|---|
| 濃紫(こむらさき) | 深みのある紫色 | 皇族・高僧 |
| 薄紫(うすむらさき) | やさしく淡い紫 | 一般の人々 |
こうした色の階層構造は、紅花染めの世界とよく似ています。
「濃い紫=禁色」「薄い紫=聴色」という構図が成立していたのです。
紫根染めの薄紫を「聴色」とした背景
紫根染めとは、ムラサキ草の根を煮出して染料とする日本古来の技法です。
奈良時代から平安時代にかけて広く用いられ、特に高貴な階層の衣装に多く使われました。
しかし、紅花と同じく紫根も希少な植物であり、濃く染めるには大量の原料と手間が必要でした。
そこで、庶民が扱えるのは淡い紫色にとどまり、その色が「聴色」と呼ばれるようになったのです。
| 染料 | 色味 | 呼称 |
|---|---|---|
| 紅花 | 淡い紅色 | 聴色(紅系) |
| 紫根 | 淡い紫色 | 聴色(紫系) |
つまり、「聴色」という概念は“許された色”という思想そのものであり、紅や紫といった特権階級の色を、庶民も穏やかに楽しめる範囲で表現したものでした。
紅にも紫にも「許し」という美学が共通していたという点が、日本の色文化の奥深さを物語っています。
現代における聴色 ― 和のデザインや文化に見る使われ方

聴色(ゆるしいろ)は、古代の色名でありながら、今なお多くの分野で活用されています。
その柔らかな紅のニュアンスは、和の雰囲気を感じさせつつも、現代のライフスタイルにも調和します。
ここでは、ファッション・インテリア・Webデザインなどでの使い方を見ていきましょう。
聴色を活かしたファッション・インテリア事例
聴色は、淡い紅色のため、どんな色ともなじみやすく、特に日本の伝統的な服飾や空間デザインで人気があります。
和装では、桜色よりも落ち着きがあり、桃色よりも控えめな印象を与えるため、着物や帯の差し色として好まれます。
また、現代では洋服や小物のアクセントカラーとしても使われ、ナチュラルで温かみのある雰囲気を演出します。
| 使用分野 | 特徴 | 印象 |
|---|---|---|
| 着物・和装 | 落ち着いた女性らしさを表現 | 上品・穏やか |
| インテリア | 木材や生成り色との相性が良い | 温かみ・安心感 |
| アクセサリー | ゴールド・シルバーどちらにも合う | 繊細・華やか |
「派手ではないのに印象に残る色」という点が、現代デザインにおける聴色の魅力です。
Webデザインで聴色を使うときのポイント
Webデザインにおいて聴色は、背景色やアクセントカラーとして効果的に使われます。
ピンク系の中でも彩度が低く、目に優しいため、視認性を損なわずにやわらかさを演出できます。
特に、女性向けブランドや和風のテーマサイトで重宝される傾向があります。
| 用途 | おすすめ度 | 理由 |
|---|---|---|
| 背景色 | ◎ | 淡い色なので文字が読みやすい |
| ボタンやリンク | ○ | 目立たせつつ上品さを保てる |
| テキスト色 | △ | コントラストが弱くなりやすい |
また、聴色は#FCD4D5としてWebカラーコードに登録されており、どのブラウザでも安定して表示されます。
同系統の淡色(例:白、生成り、薄茶)との組み合わせが美しく、和のテイストを感じさせるデザインに適しています。
聴色に合う配色・コーディネート例
聴色は単独でも美しい色ですが、他の色と組み合わせることでより豊かな表情を見せます。
下の表では、聴色と相性の良い代表的な配色をまとめました。
| 組み合わせ色 | 配色テーマ | 印象 |
|---|---|---|
| 白・生成り | ナチュラル・和風 | 穏やかで清楚 |
| 薄茶・ベージュ | ナチュラルモダン | 落ち着いた温かみ |
| 藍色・紺色 | 和のコントラスト | 伝統的・上品 |
| グレー | モダン・シンプル | 大人っぽく知的 |
ファッションでは、春夏に白や薄茶と合わせて爽やかに、秋冬は藍やグレーで深みを出すコーディネートが人気です。
聴色は、四季や場面を問わず使える万能な伝統色といえるでしょう。
まとめ ― 聴色が今も愛される理由
ここまで、聴色(ゆるしいろ)の意味、歴史、そして現代での活用方法について見てきました。
最後に、なぜこの色が今も多くの人に愛され続けているのか、その理由を整理して締めくくります。
柔らかく上品な印象が魅力
聴色は、紅花のやさしい色合いをそのまま閉じ込めたような柔らかさを持っています。
ピンクほど甘くなく、赤ほど強くない、絶妙なバランスが特徴です。
そのため、性別や年齢を問わず使いやすく、和の文化だけでなく現代デザインにも自然に溶け込みます。
| 特徴 | 印象 | 使われる場面 |
|---|---|---|
| 淡い紅 | 上品・穏やか | 和装、Webデザイン |
| やさしい発色 | 温かみ・安心感 | インテリア、アート |
「派手ではないのに印象に残る」、それが聴色の魅力です。
伝統と自由を象徴する色
聴色の歴史を振り返ると、「許された紅色」という名の通り、身分や時代の垣根を越えて受け入れられた特別な色だったことがわかります。
濃い紅や紫が「禁色」とされた時代にあって、聴色は人々に美を楽しむ自由を与えた色でした。
その思想は、現代にも通じるものがあります。
型にはまらず、自分らしい美しさを大切にする――まさにその感性こそが、聴色の精神です。
| 意味 | 象徴する価値 |
|---|---|
| 「許された紅」 | 自由・平等の象徴 |
| 淡い色合い | 控えめな美・心の柔らかさ |
聴色は、古の時代から今に続く「思いやりの色」として、これからも多くの人々の心をやさしく彩り続けるでしょう。

