玉虫色とは何色なのかと聞かれて、はっきり答えられる人は多くありません。
緑とも青とも言い切れず、見る角度や光によって印象が変わるためです。
実はこの曖昧さこそが、玉虫色という色名の本質でした。
玉虫色は、タマムシの翅の光沢に由来し、織り色として生まれた日本の伝統色です。
一色に定めることを前提とせず、変化する見え方そのものを美と捉えてきました。
その性質はやがて、態度や表現が定まらない様子を指す言葉としても使われるようになります。
本記事では、玉虫色の色としての特徴、名前の由来、文献や装束文化での位置づけ、そして比喩表現としての意味までを整理します。
玉虫色を知ることで、日本人が大切にしてきた色彩感覚や美意識が見えてくるはずです。
玉虫色とはどんな色なのか

玉虫色とは何かと聞かれたとき、多くの人が「はっきり説明しづらい色」と感じるかもしれません。
この章では、玉虫色を色名として正確に捉えつつ、その曖昧さの正体までを整理していきます。
玉虫色とは何色かを一言で説明すると
玉虫色とは、タマムシの翅のように、見る角度や光によって青みや緑みが変化して見える暗い青緑系の色です。
一色に固定できないこと自体が、玉虫色の最大の特徴といえます。
単なる緑や青ではなく、その中間を揺れ動くような印象を持つ色として認識されてきました。
RGB・CMYK・Webカラーで見る玉虫色
現代では、玉虫色はデジタル上の色コードとしても整理されています。
ただし、これはあくまで代表値であり、実際の玉虫色の見え方を完全に固定するものではありません。
| 色指定方法 | 数値 |
|---|---|
| RGB | R:0 / G:86 / B:43 |
| CMYK | C:100 / M:0 / Y:88 / K:60 |
| Hex | #00562B |
これらの数値を見ると、玉虫色は深みのある緑を基調としていることが分かります。
ただ、実際の玉虫色は、照明や素材によって青黒くも見えるため、数値だけで判断すると違和感が生まれやすい色でもあります。
なぜ玉虫色は一色に定まらないのか
玉虫色が一色として定義しにくい理由は、その成り立ちにあります。
玉虫色はもともと織り色と呼ばれる考え方から生まれた色名です。
織り色とは、経糸と緯糸に異なる色を使い、重なり合うことで視覚的に新しい色合いを生み出す技法のことです。
玉虫色の場合、青系と紫系の糸を組み合わせることで、光の当たり方によって色が揺らいで見えました。
つまり、最初から「見る条件で変わる色」として作られていたのです。
この構造を知ると、玉虫色が曖昧だといわれる理由も、決して否定的な意味ではないことが分かってきます。
むしろ、変化することを前提に美しさを見出した、日本独特の色彩感覚が反映された色だといえるでしょう。
色名としての玉虫色の由来
玉虫色という名前は、抽象的な表現から生まれたものではありません。
この章では、玉虫色がどこから来た色名なのかを、実物と歴史の両面から整理します。
タマムシの翅に由来する実際の色合い
玉虫色の語源となっているのは、タマムシと呼ばれる甲虫です。
タマムシの翅は、緑を基調としながら、光の角度によって青や赤みを帯びて見えます。
この金属的な光沢は、顔料による色ではなく、翅の微細な構造によって生まれています。
そのため、見る位置が少し変わるだけで、まったく違う色合いに感じられます。
一定の色として固定できない美しさこそが、玉虫色の原点といえるでしょう。
古くから人々は、この不思議な輝きを「一色では言い表せない色」として受け止めてきました。
虫襖・夏虫色と呼ばれた理由
玉虫色は、時代や文脈によって別の名前でも呼ばれてきました。
代表的なものが「虫襖」や「夏虫色」です。
これらはいずれも、タマムシの翅を連想させる色合いを指しています。
特に「虫襖」は、装束や染織の世界で使われた呼称で、玉虫色と同系統の色と考えられてきました。
| 呼び名 | 意味・背景 |
|---|---|
| 玉虫色 | タマムシの翅のように変化して見える色 |
| 虫襖 | 装束や染織で使われた玉虫色系の呼称 |
| 夏虫色 | 夏に見られる虫の光沢を連想させる名称 |
名前が複数存在すること自体が、この色の捉えにくさを物語っています。
玉虫色は、厳密な色相よりも「見え方」や「印象」を重視して名付けられた色でした。
そのため、時代や用途によって呼び名が揺れ動いたのも、自然な流れだったと考えられます。
玉虫色が「見る角度で変わる色」とされる理由

玉虫色が不思議な色とされる最大の理由は、色そのものではなく「作られ方」にあります。
この章では、玉虫色がどのような仕組みで変化して見えるのかを解説します。
織り色とは何か
玉虫色は、もともと織り色として知られていました。
織り色とは、経糸と緯糸に異なる色の糸を使い、重なり合うことで新たな色合いを生み出す考え方です。
絵の具のように色を混ぜるのではなく、細かな色同士が目の中で混ざることで、独特の見え方が生まれます。
例えるなら、細い縞模様を遠くから見たときに、一色に見える現象に近いものです。
玉虫色は、物理的に一色を作ったのではなく、視覚的に生まれた色といえます。
経糸と緯糸が生み出す視覚効果
玉虫色の織物では、経糸に青系、緯糸に紫系の色が使われることが多くありました。
光が当たる角度によって、どちらの糸が強く反射するかが変わります。
その結果、ある角度では緑が強く見え、別の角度では青黒く、あるいは紫がかって見えるのです。
| 要素 | 玉虫色への影響 |
|---|---|
| 経糸の色 | 全体の基調色を決める |
| 緯糸の色 | 光の角度による変化を生む |
| 光の当たり方 | 見える色合いを大きく左右する |
このように、玉虫色は見る人や環境によって印象が変わります。
誰が見ても同じ色に見えることを前提としていない点が、一般的な色名との大きな違いです。
変化することを欠点ではなく魅力として受け入れたところに、日本の色彩文化の特徴が表れています。
言葉として使われる玉虫色の意味
玉虫色という言葉は、色名としてだけでなく、比喩表現としても広く使われています。
この章では、玉虫色がどのようにして「曖昧さ」を表す言葉になったのかを見ていきます。
なぜ曖昧さを表す言葉になったのか
玉虫色が比喩として使われるようになった背景には、実際の玉虫の翅の性質があります。
タマムシの翅は、見る角度によって緑にも赤にも見えるため、はっきりと一色に定まりません。
この性質が、人の態度や意見のあり方に重ね合わされました。
どちらとも取れる態度や、結論を明確にしない表現を指して、玉虫色と呼ぶようになったのです。
玉虫色とは、どちらか一方に決めきらない状態を象徴する言葉といえます。
この意味合いは、否定的にも中立的にも使われる点が特徴です。
現代日本語における玉虫色の使われ方
現代では、玉虫色は主に文章や会話の中で比喩的に用いられます。
特に、政治的な発言や組織の方針説明などで見かけることが多い表現です。
| 使われる場面 | 意味合い |
|---|---|
| 公式文書 | 立場を明確にしない配慮的な表現 |
| 日常会話 | 態度がはっきりしない様子 |
| 批評・論評 | 評価を保留する、または逃げの姿勢 |
文脈によっては、柔軟さを評価する意味にも、責任回避を批判する意味にもなります。
玉虫色という言葉自体が、評価を一方向に固定しない性質を持っているのです。
この点は、色名としての玉虫色と非常によく重なっています。
日本の装束と文献に見る玉虫色

玉虫色は、単なる感覚的な色名ではなく、装束文化や文献の中でも語られてきました。
この章では、歴史資料の中で玉虫色がどのように扱われてきたのかを整理します。
色名大辞典に記された玉虫色の解釈
近代以降の色名研究では、「色名大辞典」に記された玉虫色の説明がよく引用されます。
そこでは、玉虫色が中古の服装における色目の一つとして紹介されています。
具体的には、表が青黒、裏が二藍や薄色とされる配色が挙げられています。
ただし、この記述は、玉虫色という独立した襲の色目が存在したことを断定するものではありません。
後世の整理の中で、関連する色の説明がまとめられた可能性が高いと考えられています。
雁衣抄・色目秘抄から分かる位置づけ
鎌倉時代の装束書として知られる資料では、「虫襖」という色目が詳しく説明されています。
その注記の中で、「一説には玉虫色とする」といった形で、玉虫色との関連が示唆されています。
ここから分かるのは、玉虫色が明確に定義された色目というより、呼称の揺れの中で扱われていたという点です。
また、「色目秘抄」では、玉虫色が重の色目として整理され、表が青、裏が紫という配色が示されています。
| 資料名 | 玉虫色の扱い |
|---|---|
| 色名大辞典 | 中古服装の色目として整理 |
| 雁衣抄 | 虫襖との関係性が示唆される |
| 色目秘抄 | 表青・裏紫の重の色目として記載 |
これらの資料を総合すると、玉虫色は厳密な制度色ではなかった可能性が高いといえます。
状況や季節、着用者の立場によって呼び方が変わる、柔軟な色概念として存在していたと考える方が自然でしょう。
この曖昧さこそが、後の時代に比喩表現として広がっていく下地になったともいえます。
玉虫色についてのまとめ
玉虫色とは、タマムシの翅のように、見る角度や光の当たり方によって表情を変える青みを帯びた緑色です。
一色として固定できない点が特徴であり、その曖昧さ自体が、この色の本質といえます。
もともと玉虫色は、経糸と緯糸の色の組み合わせによって生まれる織り色として成立しました。
そのため、顔料で定義される色とは異なり、視覚的な変化を前提とした色名でした。
また、装束文化や文献の中では、虫襖や重の色目と結び付けられながら、一定しない呼称として扱われてきました。
厳密な制度色ではなく、状況や解釈によって揺れ動く存在だったことが分かります。
こうした性質は、やがて比喩表現へと広がり、現代では「どちらとも取れる」「態度を明確にしない」といった意味で使われるようになりました。
色名としての特徴が、そのまま言葉の意味へと転用された点が、玉虫色という語の面白さです。
玉虫色は、曖昧さを否定せず、美しさとして受け止めてきた日本人の色彩感覚を象徴する存在といえるでしょう。
はっきり決めないこと、変化を許容することを価値とする感覚は、現代の表現やデザインにも多くの示唆を与えています。
