茅色（かやいろ）とは？由来・色コード・日本人の美意識を読み解く

茅色（かやいろ）という言葉を聞いたことがありますか。

それは、葺き替えたばかりの茅葺き屋根のように、わずかに赤みを帯びたくすんだ黄色を指す、日本の伝統色のひとつです。

華やかではないけれど、どこか懐かしく、穏やかな温もりを感じさせるその色には、日本人の「侘び・寂び」の美意識が息づいています。

この記事では、茅色の由来や色コード、似ている伝統色との違いを詳しく紹介しながら、この色が持つ文化的な意味や魅力を紐解きます。

自然とともに生きてきた日本人の感性を、茅色という一色から感じ取ってみましょう。

茅色（かやいろ）とはどんな色？

茅色（かやいろ）は、日本の伝統色の中でも特に穏やかで落ち着いた印象を持つ色です。

この章では、茅色の由来や色味の特徴、そして近い色との違いについて詳しく見ていきましょう。

茅色の基本情報と由来

茅色とは、葺き替えたばかりの茅葺き屋根（かやぶきやね）のように、わずかに赤みを帯びたくすんだ黄色のことを指します。

別の漢字では「萱色（かやいろ）」とも書かれ、その名のとおり枯れた茅（かや）に由来する色です。

この色名は、日本の自然と暮らしに深く根ざしており、古くから日本人に親しまれてきました。

茅（かや）はススキやチガヤなどの総称で、茅葺き屋根などの素材として利用されてきた植物です。

茅の枯れた姿がもつ素朴で静かな美しさをそのまま色に写し取ったのが、茅色というわけです。

項目	内容
色名	茅色（かやいろ）
別表記	萱色（かやいろ）
由来	枯れた茅の色に由来
イメージ	穏やか・素朴・自然

茅色の色コード・近似色との比較

現代のデジタル環境でも再現できるよう、茅色にはおおよそのカラーコードが設定されています。

たとえば、茅色は#d3b770前後の色味に近く、やや赤みを含んだ黄土色のような印象を持ちます。

近い伝統色としては「枯色（かれいろ）」や「芒色（すすきいろ）」が挙げられます。

下の表では、それぞれの色味の特徴を比較してみましょう。

色名	色コード（目安）	特徴
茅色	#d3b770	赤みのあるくすんだ黄色。温かみを感じる自然な色。
枯色	#c0a36e	やや茶色が強く、渋みのある落ち着いた色。
芒色	#e6c76e	明るく黄みが強い、すすきの穂を思わせる色。

こうして見ると、茅色は自然の温もりと静けさを同時に感じさせる色であることがわかります。

華やかではないものの、どこか懐かしく、穏やかな存在感を持つ色です。

茅（かや）とは何の植物？

茅色の由来となる「茅（かや）」は、古来から日本の生活に深く関わってきた植物です。

この章では、茅の種類や使われ方、そして茅葺き屋根に見られる日本の風景と文化について紹介します。

茅の種類と歴史的な使われ方

「茅（かや）」という言葉は、実は特定の植物を指すものではありません。

ススキやチガヤ、ヨシなど、屋根材や敷き草として使われるイネ科の植物の総称です。

特にススキは、秋の風物詩としても知られる日本の代表的な草で、茅葺きの主素材としても重宝されました。

縄文時代の遺跡からは、茅を束ねて作られた住居跡が見つかっており、茅は日本人の暮らしに欠かせない素材だったことがわかります。

古代から続くこの伝統は、現在も各地の神社や古民家の屋根修復などに受け継がれています。

植物名	特徴	用途
ススキ	秋の代表的な草。長く丈夫で耐久性がある。	茅葺き屋根、装飾
チガヤ	柔らかく扱いやすい。全国に自生。	屋根材、敷物
ヨシ	川辺に多く、湿地に強い。	屋根材、簾（すだれ）

こうした茅の素材は、自然の中で循環する暮らしを象徴するものであり、現代のサステナブルな生活にも通じる考え方です。

茅葺き屋根に見る日本の風景と文化

茅葺き屋根は、かつて日本の農村部で広く見られた伝統的な建築様式です。

厚く重ねた茅は断熱性と通気性に優れ、夏は涼しく冬は暖かいという自然の知恵が生きています。

また、葺き替えの時期によって屋根の色が変わるのも特徴的です。

新しい屋根はやや赤みがあり、これが「茅色」と呼ばれる色味の原点となっています。

やがて時間が経つと、風雨にさらされて灰褐色に変わり、家と自然が調和していく様子が美しく感じられます。

時期	屋根の色	印象
葺き替え直後	茅色（淡い黄褐色）	明るく温かみがある
経年変化後	灰褐色	落ち着きと渋みが出る

このように、茅葺き屋根は自然と共に生きる日本人の知恵を象徴しています。

茅色は、そうした日本の生活文化そのものを色として表現した存在だといえるでしょう。

茅色が表す日本の美意識

茅色は単なる自然の色ではなく、日本人が古くから大切にしてきた美意識を象徴する色でもあります。

この章では、「侘び・寂び」の心や文学の中に見られる茅色の表現を通して、その精神性をひもといていきます。

枯れた茅に宿る「侘び・寂び」の美

茅色の最大の魅力は、その控えめで静かな美しさにあります。

枯れた茅のくすんだ黄褐色は、華やかさこそありませんが、時の流れや自然の移ろいを感じさせる深い味わいを持っています。

こうした「朽ちゆくものにこそ美がある」という感覚は、日本特有の美意識である「侘び・寂び（わび・さび）」と重なります。

たとえば、茶道の世界では使い込まれた茶碗のひびや色の変化を「景色」と呼び、そこに時間の積み重ねを見出します。

茅色もまた、まさにそのような時間の美しさを宿す色といえるのです。

要素	意味	茅色との関係
侘び（わび）	質素で静かな美しさ	控えめな黄褐色が象徴
寂び（さび）	時間の経過が生む味わい	枯れた茅の色変化に通じる

このように茅色は、派手さを排した中に温もりと深みを感じさせる、日本人らしい「美の核心」を体現しています。

『万葉集』に見る茅と季節の情緒

『万葉集』には、茅を詠んだ歌が多く登場します。

それは茅が単なる植物ではなく、季節や人の心の移ろいを象徴する存在だったからです。

たとえば秋の野原に風が吹き、茅が揺れる情景は、日本人にとって「もののあわれ（儚さと美しさ）」を感じさせる光景でした。

枯れゆく茅に色を見出す感性は、まさに自然と一体になって生きてきた日本人の心そのものです。

茅色はその心情を凝縮した「詩情のある色」といえるでしょう。

作品	内容	表現される情緒
『万葉集』	茅原を吹く風や秋の寂しさを詠む	移ろい・哀愁・自然美
『古今和歌集』	枯草や野辺の色を通して心情を表現	儚さ・沈静・内省

このように、茅色は単なる色彩ではなく、日本人の情緒や詩的感性と深く結びついた文化的シンボルなのです。

茅色と似ている伝統色

茅色はくすんだ黄褐色の中間的な色合いを持ち、他の伝統色にもよく似た色が存在します。

この章では、茅色と混同されやすい「枯色」や「枯野」、「芒色」との違いを比較しながら、その微妙な色の世界を見ていきましょう。

枯色（かれいろ）との違い

枯色（かれいろ）は、茅色と同じく「枯れた植物」に由来する色名です。

ただし、枯色はより茶色が強く、落ち着いた印象を持つのが特徴です。

茅色が赤みをわずかに含んだ黄褐色であるのに対し、枯色はもう少し濃く、冬枯れの野原のような渋みを感じさせます。

つまり、茅色が「穏やかで温かい色」なら、枯色は「静かで奥ゆかしい色」といえるでしょう。

色名	色コード（目安）	印象
茅色（かやいろ）	#d3b770	赤みのあるくすんだ黄褐色。自然で温かい。
枯色（かれいろ）	#c0a36e	茶色が強く、落ち着きのある渋い色。

この微妙な違いが、和の色の奥深さを物語っています。

どちらも派手さはないものの、どこか心を落ち着かせてくれる色です。

枯野（かれの）や芒色（すすきいろ）との関係

枯野（かれの）は、冬の野原を思わせる灰みのある淡い茶色です。

一方の芒色（すすきいろ）は、すすきの穂が日に照らされたときの明るい黄金色を表します。

この2色は、茅色と同じ自然風景から生まれた仲間のような存在です。

季節のうつろいや植物の命の循環を色で感じさせる点で、どれも共通しています。

色名	色コード（目安）	特徴
枯野（かれの）	#bfa46f	灰みを帯びた茶色。冬の野を連想させる。
芒色（すすきいろ）	#e6c76e	明るく黄みが強い。初秋のすすきの穂を思わせる。

茅色・枯色・枯野・芒色はいずれも、自然の変化を映し出す色です。

中でも茅色は、その中間に位置する色として、季節の移ろいの「つなぎ目」を感じさせる存在といえるでしょう。

日本人が自然と共に暮らしてきた証が、これらの色の中には息づいているのです。

まとめ：茅色が教えてくれる「自然と共に生きる色」

ここまで見てきたように、茅色（かやいろ）は単なる伝統色のひとつではありません。

それは、古来より日本人が自然と共に生き、季節や命の循環に美を見出してきた精神そのものを映し出す色です。

茅色は、華やかさとは対照的に、枯れた植物が見せる静けさと温もりを持っています。

その控えめな色調の中には、自然への敬意、時間の経過への受容、そして「侘び・寂び」の心が宿っています。

まるで冬を越えて春を待つような、穏やかで前向きな強さを秘めた色なのです。

要素	茅色に込められた意味
自然との共生	枯れた茅の色に生命の循環を感じる
美意識	派手さを求めず、控えめな中に美を見る
文化的象徴	『万葉集』や茅葺き屋根などに息づく伝統

現代のデザインやファッションにおいても、茅色のような自然を感じる色は注目されています。

ナチュラルで落ち着いたトーンは、どんな場面にも馴染み、心を穏やかにしてくれます。

茅色は、私たちに「自然とともに生きる」という日本人の原点を思い出させてくれる色です。

それは、これからの時代にも大切にしたい「持続する美しさ」の象徴といえるでしょう。