白鼠色(しろねずみいろ)は、日本の伝統色の中でもひときわ静かで上品な印象を持つ淡い灰色です。
その名のとおり、白に近い明るさを帯びながらも、どこか銀色のような落ち着きを感じさせるこの色は、江戸時代中期に誕生しました。
「墨の五彩(ごさい)」では最も淡い「清(せい)」にあたり、静けさと洗練を象徴する色とされています。
本記事では、白鼠色の意味や由来、他の鼠色との違い、そして現代デザインでの使い方までを分かりやすく解説します。
伝統とモダンが交わる美しい灰色の世界を、一緒にのぞいてみましょう。
白鼠色とは?意味と由来

この記事の最初では、「白鼠色(しろねずみいろ)」という日本の伝統色がどのような意味と歴史を持つのかを詳しく見ていきます。
見た目の印象や語源、そして他の灰色系の色との違いまでを丁寧に解説します。
白鼠色の基本データ(RGB・CMYK・Webカラー)
まずは、白鼠色の基本的なカラーデータを見ていきましょう。
この色は、やや銀色を帯びた明るい灰色で、控えめながらも上品な印象を与える色として知られています。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| RGB | R:220 / G:221 / B:221 |
| CMYK | C:0 / M:0 / Y:0 / K:13 |
| Webカラー(Hex) | #E6E6E6 |
| 誕辰色 | 10月15日 |
数値からも分かるように、白鼠色は限りなく白に近い淡い灰色です。
そのため、背景色や和風デザインの基調としてよく使われます。
名前の由来と「白ねず」との違い
白鼠という名前は、「白」と「鼠(ねずみ)」という二つの要素から成っています。
「鼠」は古くから灰色を意味し、白を加えることで銀色のように上品でやわらかな印象を表すようになりました。
江戸時代中期から使われ始めた色名で、語尾を省略して「白ねず」と呼ばれることもあります。
つまり、白鼠色とは「灰色に白の光を差したような、清らかな灰色」のことを指します。
また、白鼠色は『銀色(しろがねいろ)』ともほぼ同色とされ、金属的な光沢を感じさせる点が特徴です。
白鼠色=銀鼠よりも明るく、白銀のように気品のある色と覚えておくと良いでしょう。
このように、白鼠色は単なる灰色ではなく、「静けさ」「品格」「控えめな美しさ」を象徴する伝統的な色なのです。
白鼠色の歴史と文化的背景

ここでは、白鼠色がいつ、どのように生まれ、どんな文化的意味を持ってきたのかを解説します。
日本の伝統色の中でも、白鼠色は江戸文化と深く関わる「上品な灰色」として位置づけられています。
江戸時代に生まれた上品な灰色
白鼠色という名前が文献に登場するのは、江戸時代中期とされています。
当時の町人文化では、派手な色が禁じられていたため、落ち着いた色合いの「鼠色」や「茶色」が流行しました。
その中で、最も淡く上品な灰色として生まれたのが白鼠色です。
| 時代 | 色の特徴 | 背景 |
|---|---|---|
| 江戸中期 | 淡い灰色 | 奢侈禁止令(しゃしきんしれい)による落ち着いた色の流行 |
| 江戸後期 | 銀色に近い灰色 | 町人文化の成熟と上品な美意識の浸透 |
このような背景から、白鼠色は控えめでありながら洗練された美しさを象徴する色として愛されました。
武士や商人の衣服、または茶器や和紙の装飾など、幅広い分野で使われていたといわれています。
「墨の五彩」における白鼠の位置づけ
白鼠色は、「墨の五彩(ごさい)」と呼ばれる墨色の濃淡の中でもっとも淡い色、「清(せい)」にあたります。
墨の五彩とは、焦・濃・重・淡・清の5段階で墨色を表したもので、日本の伝統的な色彩観の一部です。
| 名称 | 意味 | 対応する色例 |
|---|---|---|
| 焦 | 最も濃い黒 | 黒鼠(くろねず) |
| 濃 | 深い灰色 | 丼鼠(どぶねずみ) |
| 重 | やや明るい灰色 | 素鼠(すねずみ) |
| 淡 | 薄い灰色 | 銀鼠(ぎんねず) |
| 清 | 最も淡い灰色 | 白鼠(しろねずみ) |
この分類を見ると、白鼠色がいかに淡く、清らかな印象を持つ色であるかがわかります。
白鼠色は「墨の五彩」の頂点にある、最も澄んだ灰色であり、まるで霧のような透明感を感じさせます。
まさに、江戸の人々が求めた「静寂の美」の象徴といえるでしょう。
白鼠色の染色方法と技法

ここでは、白鼠色がどのように染められていたのか、また江戸時代の染色技法の中でどんな位置を占めていたのかを見ていきます。
白鼠色には明確な染法の記録は残っていませんが、江戸中期の染色文化をひも解くと、その製法の手がかりが見えてきます。
江戸の染色文化に見る白鼠色
白鼠色の染法は、江戸中期の『紺屋伊三郎染見本帳』に記録されています。
そこでは、白鼠色が「鼠染(ねずぞめ)を最も淡くした色」として紹介されています。
つまり、灰色系の染色の中でもっとも白に近い明るさを出すため、染料を極端に薄めて仕上げた色と考えられます。
| 資料名 | 記述内容 |
|---|---|
| 紺屋伊三郎染見本帳 | 鼠染の最も淡い色として白鼠色を掲載 |
| 諸色手染草 | 茄子の木の炭を用いた鼠色の作り方を記述 |
このように、白鼠色は鼠色の染料をもとにして作られた、いわば「灰色の最終段階」といえる色でした。
「鼠染」と白鼠の関係
『諸色手染草(しょしきてぞめぐさ)』には、鼠色を作るための具体的な染法が記されています。
それによると、「茄子の木を焼いて炭にし、よくすりつぶして伸ばし、ごまめの汁を少量加えて染める」とあります。
さらに、「酢で溶くと艶が出て、より美しい色になる」とも書かれています。
| 工程 | 内容 |
|---|---|
| 1 | 茄子の木を焼いて炭にする |
| 2 | 炭を細かくすりつぶして水にのばす |
| 3 | ごまめ(小魚)の汁を少量加える |
| 4 | 酢で溶くことで艶と発色を調整 |
この染法は白鼠色専用ではありませんが、ここに示されている「淡さの調整」が白鼠色を生み出す鍵になります。
白鼠色とは、鼠染の技術を極限まで薄く、繊細に仕上げた結果生まれた色なのです。
現代では、白鼠色は化学染料やデジタルカラーコードで再現されることが多いですが、江戸時代の染職人たちは自然素材だけでその微妙な色合いを表現していたのです。
白鼠色と他の鼠色の違い

ここでは、白鼠色とそれに近い「鼠系の色」との違いを詳しく比較します。
日本の伝統色には、多くの灰色系統の色が存在し、それぞれに微妙なニュアンスと文化的な意味が込められています。
銀鼠・素鼠・丼鼠・黒鼠との比較表
白鼠色は、灰色系の中でもっとも淡く、明るさを帯びた色です。
一方で、同じ「鼠」と名のつく色にも、濃さや印象の違いがはっきりあります。
| 色名 | 特徴 | 印象 |
|---|---|---|
| 白鼠(しろねずみ) | 最も明るく白に近い灰色 | 上品・柔和・清らか |
| 銀鼠(ぎんねず) | やや金属的な光沢を持つ灰色 | 洗練・静寂 |
| 素鼠(すねずみ) | 少し温かみのある中間的な灰色 | 落ち着き・自然 |
| 丼鼠(どぶねずみ) | 濃く深い灰色 | 渋み・重厚 |
| 黒鼠(くろねずみ) | ほとんど黒に近い濃灰 | 力強さ・陰影 |
この表からも分かるように、白鼠色は「鼠色の中の光」ともいえる存在です。
濃淡のバランスが繊細で、他の灰色にはない柔らかさと気品があります。
白鼠色がもつ上品さと明るさの特徴
白鼠色は、その明るさから「銀色(しろがねいろ)」と同義で扱われることもあります。
しかし、白鼠色は金属的な光沢を持つわけではなく、むしろ紙や絹のような、自然な明るさを感じさせます。
そのため、どんな色とも調和しやすく、背景色や下地としても使いやすいのが特徴です。
| 観点 | 白鼠色の特徴 |
|---|---|
| 明度 | 非常に高く、白に近い |
| 彩度 | ほぼ無彩色(色味が少ない) |
| 印象 | 静けさ・清潔感・上品さ |
白鼠色の美しさは「主張しないこと」にあると言われます。
華やかではないけれど、どんな色をも引き立て、調和させる柔軟性がこの色の魅力です。
江戸の人々がこの色を好んだのも、まさに「静かで控えめな美」を愛する日本的感性のあらわれなのです。
白鼠色の使い方と現代デザインへの応用

この章では、白鼠色が現代のデザインや暮らしの中でどのように活かされているのかを紹介します。
伝統色でありながら、白鼠色はデジタルやファッションなど多様なシーンにマッチする万能な色です。
Webデザインやインテリアでの配色例
白鼠色は、Webデザインやグラフィックデザインの分野でも人気があります。
背景やボーダーライン、文字の背景などに使うことで、洗練された印象を与えることができます。
| 使用シーン | 効果 | おすすめの組み合わせ |
|---|---|---|
| Webサイト背景 | 清潔感・高級感 | 藍色・群青色・墨色 |
| 名刺やパンフレット | 落ち着き・信頼感 | 焦茶色・胡粉色 |
| インテリア壁面 | 静けさ・空間の広がり | 薄香色・亜麻色 |
白鼠色は「主張しない存在感」を持っており、他の色を引き立てるバランスカラーとして優れています。
特にモノトーンデザインの中に取り入れると、黒や白とのコントラストがやわらぎ、より自然な調和を生み出します。
和服・伝統工芸での白鼠色の魅力
和服や染織の世界でも、白鼠色は人気の高い色のひとつです。
特に絹や麻などの自然素材との相性がよく、光の当たり方によって銀色にも淡灰にも見える奥行きを持ちます。
| 用途 | 印象 | 例 |
|---|---|---|
| 着物の地色 | 上品・控えめ | 白鼠色の地に藤色の帯 |
| 陶器や漆器 | 静けさ・高雅 | 白鼠釉の茶碗、白鼠塗りの箸 |
| 和紙や文具 | 清楚・柔らか | 白鼠和紙の便箋 |
白鼠色は、伝統文化と現代デザインの両方で使われる珍しい色です。
「華やかではないけれど、美しい」という価値観を体現しており、日本的な「わび・さび」の精神にも通じます。
そのため、白鼠色を使うことでデザイン全体に品格と深みを与えることができるのです。
白鼠色は、まるで霧が静かに立ちのぼる朝の風景のように、見る人に安らぎをもたらします。
現代のデザインでも、白鼠色は「控えめな美しさ」を演出する最良の色といえるでしょう。
まとめ:白鼠色が象徴する「上品さと静けさ」
最後に、ここまで見てきた白鼠色の魅力を総まとめしていきましょう。
白鼠色は、単なる灰色ではなく、日本人の美意識そのものを映す繊細な色です。
江戸時代に生まれた白鼠色は、派手さを抑えながらも、確かな存在感を放つ色でした。
その穏やかな明度と柔らかさは、まさに「静かな上品さ」の象徴といえます。
| 特徴 | 内容 |
|---|---|
| 色の印象 | 白に近い灰色で、やさしく上品 |
| 文化的背景 | 江戸の町人文化から生まれた落ち着きの美 |
| 象徴するもの | 静けさ・清潔感・品格・控えめな美 |
白鼠色は、「墨の五彩」において最も淡い「清(せい)」の位置にあり、澄み切った空気のような印象を与えます。
それは、騒がしさの中にあっても静寂を保つ心のような存在です。
現代でも、白鼠色はWebデザインやインテリア、和服など、幅広い分野で使われ続けています。
それは、時代が変わっても「落ち着き」「清らかさ」「美しさ」を求める人の心が変わらないからでしょう。
白鼠色は、日本人の静かな美意識を象徴する永遠の色です。
控えめでありながら、確かな存在感を放つその色は、まさに「和の上品さ」の原点といえるでしょう。
